―言われるがまま遺産分割協議書に署名押印してしまいました―

遺産分割協議のやりなおしが認められるのは例外的な場合に限られる

遺産分割に関する協議が成立し、遺産分割協議書を作成しても、協議内容に無効原因や取消原因、解除原因が発覚する場合があります。このような場合には、遺産分割の無効や、分割協議のやり直し、遺産分割協議の解除等が問題となりますが、いずれにせよ一度成立した遺産分割協議のやりなおしが認められる場合は、例外的な場合に限られます。

遺産分割協議が無効となる場合とは

遺産分割協議が無効となる場合は主に次の場合です。

分割協議当時に戸籍上判明していた共同相続人を除外した場合

共同相続人を除外して成立させた遺産分割協議は無効となり、分割協議のやりなおしが必要となります。遺産分割協議は本来、共同相続人全員の自由な意思の合致によりなさなければならないためです。

実務上みられるのは、共同相続人の一部が所在不明の場合です。共同相続人の一部が所在不明の場合には、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申立てたうえ、不在者財産管理人を交えて遺産分割協議を行う必要がありますので、注意してください。

また、稀なケースですが、胎児抜きで遺産分割協議が成立した後、胎児が生まれた場合にも、遺産分割協議は無効となります。相続人となるべき者が胎児の場合、胎児も生まれたものとみなされるためです(民法886条1項)

包括受遺者や相続分の譲受人を除外した場合

包括受遺者とは、遺贈の対象となる財産を特定せずに、積極財産(プラスの財産)も負債などの消極財産(マイナスの財産)も包括的に承継する遺贈(包括遺贈)を受けた人のことです。包括受遺者は相続人と同一の権利義務がありますので(民法909条)、共同相続人を除外した場合と同様、包括受遺者を除外した場合も、遺産分割協議は無効となり、分割協議のやりなおしが必要となります。

また、相続分の譲渡とは、相続権を有する者が、遺産分割協議前に、自分の相続分をほかの相続人や第三者に譲り渡すことです(民法905条)。

この場合も、簡単に言えば、相続分をもらった人は、共同相続人と同一の権利義務を持っているということになりますから、共同相続人を除外した場合と同様、遺産分割協議は無効となり、分割協議のやりなおしが必要となるのです。

遺産分割協議で相続人である親が相続人である子の代理人となった場合

遺産分割協議で相続人である親が相続人である子の代理人となった場合、利益相反行為となり追認が無ければ無効となる可能性が高いといえます。

この場合、親権者は遺産分割協議に際して特別代理人の選任の手続をとり(民法826条)、遺産分割協議をやり直す必要があります。

遺産分協議後、新たに遺産があることが判明した場合

判明した遺産が重要で、当事者がその遺産のあることを知っていたらこのような分割協議はなされなかったであろうと考えられ、全遺産をもって分割をやり直したほうが公平と考えらえる場合には無効となり、分割協議のやりなおしが必要となります。

他方、新たに判明した遺産のみを分割すれば足りる場合には、当初の遺産分割協議を無効とする必要性はありませんので、分割協議のやりなおしは認められないこととなります。

遺産分割協議後に遺言があることが判明した場合

遺産分割協議後、被相続人の遺言があることが判明することがあります。この場合、遺産分割協議が無効となるかは、遺言の内容によって判断されることとなります。

遺産分割協議の解除は認めらるか

遺産分割協議においては、相続人の一部がある遺産を取得する代わりに、他の相続人に対して債務(義務)を負担することがあります。例えば、親を介護する代わりに、実家を相続したケースを想定してください。この場合に、その相続人が債務を履行せず、あるいは義務を果たさなかった場合、遺産分割協議を解除して(債務不履行解除といいます)、やり直すことはできるのでしょうか。

結論を申し上げますと、義務を全く果たさない場合、先の例で言えば、相続人が親の介護を全くしなったとしても解除を認めないのが判例です。遺産分割の性質上解除の余地がないこということと、解除を認めると法的安定性を害されることが理由とされています。

他方、遺産分割協議を相続人全員の合意により解除することは認められています。先の例であっても、親の介護をしなかった相続人が解除に合意すれば、遺産分割協議はやりなおされることとなります。また、当初の遺産分割協議書に「親の介護をしなかった場合には効力は生じない」等の解除条件を設けておけば、実際に相続人が親の介護をしなかった場合、条件が成就したとして解除が認められるとする見解が一般的です。

錯誤無効や詐欺、強迫による取消しは認めらるか

遺産分割協議も相続人間の意思表示の合致によるものです。そのため、錯誤(勘違いがあった)や詐欺(騙された)、強迫(脅された)という事情があれば、遺産分割協議が無効となったり、取消しが認められたりする可能性があります。ただし、遺産分割協議が錯誤や詐欺等によって無効・取消となる場合は非常に限定的なケースです。

言われるがまま遺産分割協議書に署名押印した場合、遺産分割協議をやりなおせるか

前置きが長くなりましたが、言われるがまま遺産分割協議書に署名押印した場合、遺産分割協議をやりなおせるでしょうか。
次のケースをみてみましょう。

遺産について概ね正確な情報が記載されているのに遺産分割協議書の内容をよく確認せず、署名押印した

この場合は、単純に確認不足の一言につきますので、錯誤や詐欺等はなく、遺産分割協議書に一度署名・押印した以上、遺産分割協議をやりなおすことはできません。

遺産の内容について嘘の説明を受けて遺産分割協議書に署名押印した

例えば、遺産の総額が2000万円であるにも関わらず、1000万円しかないとの嘘の説明を受けて、それを前提に遺産分割協議書に署名押印したケースが考えられます。このケースの場合、遺産の総額は遺産分割協議を成立させるうえで重要な要素であることから、遺産の総額が2000万円であると知っていれば遺産分割協議には応じなかったと考えられます。そのため、錯誤(勘違い)や詐欺があるといえ、遺産分割協議書が無効ないし取消しとなる可能性があります。

遺産を全く把握していないのに、言われるがまま遺産分割協議書に署名押印した場合

遺産の内容を知らないまま、遺産分割協議書にはそのほとんどが記載されているものと信じて、これに署名押印した場合には要素の錯誤があり、無効であると判断される可能性があります。
ただし、事前に資料や情報を提供されており、その資料を見れば遺産の内容を容易に知れた場合や、自ら遺産の内容を調査できる立場にあるにもかかわらずこれを怠った場合などにはやはり単なる確認不足であることから、無効と認められない可能性が高いといえます。
いずれのケースにも共通することですが、無効を主張する相続人の認識と実体との間に大きなずれが認められる場合には、無効が認められる余地があると言えます。

専門家に相談を

遺産分割協議のやりなおしをするには、、遺産分割協議書を作成するに至った経緯や遺産についての認識と実態との間のずれ、実際に行われた分割の内容、分割方法が不平等な場合はそれに合理的な理由があるかどうか、など様々な視点から検討をする必要があります。また、実際に無効を主張するためには、遺産分割協議無効の訴えを提起して、勝訴判決を得る必要があることが通常です。なお、遺産分割のやりなおしにおいては、相続後の贈与と認定されて贈与税が課せられるおそれもあります。

遺産分割の無効等を主張されるのでしたら、弁護士や税理士といった相続の専門家に相談されることをお勧めします。

 

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