遺産分割協議が相続人間だけでは、まとまらず話が進まない場合、裁判所を利用して相続財産の分割方法を決めていくことができます。
手続きの種類には、「遺産分割調停」「遺産分割審判」があり、この記事では「遺産分割調停」について解説致します。
遺産分割審判については、「遺産分割審判を徹底解説!」をご参考下さい。
目次
遺産分割調停とは?
遺産分割調停は、何のために行うのでしょうか?
家庭裁判所のHPには、次のような記載があります。
家庭裁判所の遺産分割調停手続は,被相続人の遺産としてどのようなものがあって,それを相続人の間でどのように分けるかについて,家事審判官(裁判官)と調停委員で組織される調停委員会が,中立公正な立場で,申立人,相手方それぞれから言い分を平等に聞いて,調整に努めたり,時には具体的な解決策を提案するなどして,話し合いで円満に解決できるよう斡旋する手続です。どうしても話し合いができなかったり,折り合いがつかないなど,調停での解決が困難な状況に至った場合,家庭裁判所は引き続き事件を審判手続に移し,法律に従って裁判所としての判断を示すことになります。
家庭裁判所HPより
ですので、遺産分割調停の目的は、「相続人同士が、話し合いで円満に解決できるよう斡旋していく」ことと言えます。
そのため遺産分割調停では、裁判所が遺産分割方法を決定することなく、あくまで相続人が話し合いで合意しなければ完了しません。
申立人
遺産分割調停を申し立てできるのは、次の人たちです。
・共同相続人
・包括受遺者
・相続分譲受人
共同相続人とは?
共同相続人とは、子や配偶者などの法定相続人の事をいいます。
包括受遺者とは?
包括受遺者とは、遺言により「遺言者の有する一切の財産のうち2分の1を、孫△△△に包括して遺贈する。」のように、特定の財産だけを遺言により譲り受けたのではなく、プラスの財産、借金などのマイナスの財産も含めて包括的に譲り受けた人の事をいいます。
相続分譲受人とは?
相続分譲受人とは、相続人から相続人の地位を譲り受けた人の事をいいます。
相続人の地位を引き継ぐので、プラスの財産以外にもマイナスの財産もあれば、マイナスの財産も引き継ぐことになります。
相続人に相続分を譲渡するときもあれば、相続人以外に相続分を譲渡するときもあります。
申立先
遺産分割調停を申立をする場合、次のどちらかの裁判所に申立をします。
・相手方のうちの一人の住所地の家庭裁判所
・当事者が合意で定める家庭裁判所
どちらの裁判所が管轄になるか確認をされたい方は、「裁判所管轄」をご確認下さい。
必要書類
遺産分割調停に必要となってくる書類は次の書類です。
・申立書(当事者等目録、遺産目録、相続関係図等を含めます)
・申立の実情
・被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
・相続人全員の現在の戸籍謄本(3か月以内)
・相続人全員の住民票(3か月以内)
・遺産に関する証明書
(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預貯金通帳、株式明細等)
※相続人が兄弟姉妹(と配偶者)の場合
被相続人の父母の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
※相続人のうちに子又は兄弟姉妹の代襲者が含まれる場合
本来の相続人(子又は兄弟姉妹)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
裁判所に提出する申立書等はこちらからダウンロードできます。
書類等については、家庭裁判所のHPからもダウンロードできます。
家庭裁判所の書式ダウンロードページ
費用・料金
遺産分割審判手続きでかかる費用は次の通りです。
・収入印紙:1200円
・郵便切手:当事者数×3000円ほど
(裁判所によって金額が異なります)
・書類取得費用:~1,2万円ほど
(戸籍謄本、住民票等)
・交通費
※弁護士等に依頼した場合
・弁護士等報酬:10万~500万円
(内容・事務所によって異なります)
戸籍謄本や住民票などのほとんどの書類は、1000円以下で取得できるので、実費は1万円以下で済むケースは多いです。
一方で弁護士や司法書士などに依頼した場合、依頼する内容・事務所で大きく金額は異なってきます。
弁護士費用
弁護士が手続きを行う場合、遺産分割調停の手続きを基本的に代理することができます。一般的な弁護士事務所は弁護士会の旧報酬基準と同じにしている事務所も多いので、弁護士費用の相場は次のような金額になってきます。
・着手金(旧弁護士報酬基準)
相続財産 | 弁護士報酬(税別) |
~300万円 | 相続財産の8% |
300万円~3000万円 | 相続財産の5% + 9万円 |
3000万円~3億円 | 相続財産の3% + 69万円 |
この基準で計算した場合、相続財産が1000万円だと、着手金は59万円(税別)です。
・成功報酬(旧弁護士報酬基準)
相続財産 | 弁護士報酬(税別) |
~300万円 | 相続財産の16% |
300万円~3000万円 | 相続財産の10% + 18万円 |
3000万円~3億円 | 相続財産の6% + 138万円 |
この基準で計算した場合、相続財産が1000万円だとすると、成功報酬は118万円(税別)です。
司法書士費用
司法書士に依頼した場合、司法書士ができる内容は、遺産分割調停の申立書の作成や必要書類の収集、その他のサポートはできますが、相手方の交渉や代理での出廷等はできません。
司法書士に依頼した場合の費用相場は、10万円~30万円ほどです。
期間・期日回数
遺産分割調停・審判手続きでは、どのくらいの日数がかかり、何回ほど期日は実施されるのでしょうか?
次のグラフは、家庭裁判所が公開している遺産分割調停・審判での審理期間・期日実施回数です。数値は調停と審判を合算したものとなっております。
遺産分割審判は通常1回の期日で終わることはありません。
審判期日は、相続人が主張・資料提出を出し切るか、裁判所が審判するのに熟したと判断するまで継続して行われます。
期日は、1か月から1カ月半の間に1回の間隔で行われます。
遺産分割調停の進め方
遺産分割調停は、どのような形式で進めていくのでしょうか?
調停委員を通して話し合いを行う
遺産分割調停では、裁判官1名と調停委員2名以上で組織される調停委員会を通して相続人同士が話し合いを行っていきます。
調停委員は、元教員、元銀行員、経営者などの社会経験豊富な民間人から選ばれることもありますが、寄与分や特別受益など法的に難しい課題なども多いため、弁護士や司法書士などから選ばれることが多いです。
相続人は、その調停委員を通して話し合いを進めていきます。
調停委員と別々に非公開の場で話し合い
調停では、相続人同士が一緒に調停員と話を行うことは少なく、別々に調停員と話し合いを行います。
当事者たちが調停員と話し合う時間は別々の時間に設定されており、待合室なども別々で設けられていることが多いです。
ただし、事案によっては、当事者全員が同室で調停員から事情を聴取されることもあります。
調停員との話し合いは、裁判などの傍聴できるような場で行われるのではなく、非公開の場で行われるので、当事者以外の方が遺産分割の内容を知ることはありません。
申立後の流れ
遺産分割調停の申立後、裁判所は日程を決めて、当事者から事情を聴取します。
期日で決めていく内容には、次のようなものがあり、順に話し合いで決めていきます。
1.相続人の確定
2.遺言書の確認
3.相続財産の確定
4.相続財産の評価
5.相続分の算定
6.分割方法の決定
相続人の確定
まず、相続人が誰かを確認していく必要があります。
申立時に相続人を確定するだけの戸籍謄本を提出するので、申立時の段階で確定しています。
仮に、当事者同士で相続人の範囲に争いがあり、合意できない場合は、遺産分割調停の手続きで相続人の範囲を決めるのではなく、別途、人事訴訟や訴訟に代わる調停をして戸籍を訂正したり,養子縁組や結婚の有効・無効を確定してから遺産分割の調停を進めていく必要があります。
遺言書の確認
次に有効な遺言書がないかを確認します。
有効な遺言書があれば,遺産は,遺言書の内容に従って分割されるので、遺産分割調停は不要です。
ただし,相続人全員の合意があれば,遺言書と別の分割方法を定めることができ、その場合には分割方法を遺産分割調停で決めていくことも可能です。
そもそもの遺言書の有効性などを確認する場合は、別途、民事訴訟で定めていく必要があり、遺留分について定めていく場合、別途、遺留分減殺の調停を行う必要があります。
相続財産の確定
次に相続財産の範囲を確定する必要があります。
遺産には、どのようなものがあるかは、相続人たちが調査する必要があり、裁判所は原則調査することはありません。
また相続人が不当に被相続人の預貯金を使い込んでいた場合に、その事実を争う場合や、被相続人の遺産か、他の人に所有権があるかなどを争う場合は、調停の前に別途民事訴訟で定めていく必要があり、遺産分割調停で争う内容ではありません。
話し合いができる遺産の範囲
原則:被相続人のプラスの財産
例外:債務、その他本来遺産分割の対象にならない財産
(当事者全員の同意がある場合)
基本的は、遺産分割調停ではプラスの財産についてのみ分割方法を決めていきますが、相続人全員の同意があれば、プラスの財産以外にも協議を行うことができます。ただし、相続人全員の同意があるからと言って紛争が長引き、調停の進行が滞る場合は、別訴訟での扱いになることもあります。
相続財産の評価
遺産のなかに価値が分かりにくい不動産や非公開株などがあり、相続人間で争いがある場合は鑑定等により評価をしていく必要があります。
鑑定費用は,原則として,相続分の割合で全員で負担します。
反対に、遺産の価格について相続人全員の合意がとれていれば、例え不動産などが市場価格とかけ離れても、相続人が合意した金額で評価し調停を進めていきます。
相続分の算定
相続人の範囲や遺産内容、遺産の評価などが決まった後に、それぞれ相続人の具体的な相続分を決めていく必要があります。
法定相続分に加えて特別受益や寄与分を評価し、具体的な相続分を合意していきます。
特別受益や寄与分は、主張した側が証明をしていく必要がありますが、相続人の全員の合意があれば、その内容できまります。
ただし、相続分に大きく影響しますので、争いになることが多く、調停委員が客観的な資料をもとに合意できるようにサポートしてくれます。
寄与分について争う場合は、別途「寄与分を定める処分調停」を申立し遺産分割調停と併合して進めていく必要があります。
特別受益について争う場合は、遺産分割審判において主張、立証し裁判官に認めてもらう必要があります。
調停の終了
遺産分割調停が終了ケースとしては、次の通りです。
・調停が成立した場合
・調停が不成立の場合
・調停が取り下げられた場合
調停の成立した場合
遺産分割する前提条件が話し合われ、相続人が遺産の分割方法について合意ができれば、裁判官にお互いの意思を確認してもらい調停が成立します。
調停が成立した場合、調停で合意した内容を記載した調停調書というものが作られ、当事者たちは、その調停調書の謄本を使用して、預貯金や不動産の分割手続きを各機関で行っていきます。
なお、遺産分割調停調書が作成された場合、当事者たちは、その内容を守る義務が生じます。
調停が成立しない場合
相続人たちの言い分が出揃った後に、話し合いがなかなかまとまらない場合、すぐに遺産分割審判の手続きに移行するわけではなく、次のような対応が裁判所からとられることが多いです。
・調停案を提案し、当事者の意見に変化があるか確認
・「調停に代わる審判」を出す
話がまとまらない場合、裁判所から調停案を当事者に提案することもありますし、裁判所が調停に代わる審判を出すときもあります。
調停に代わる審判が出るときというのは、次のような場合です。
・相続人の大半が分割方法について同意しているのに、1人だけが根拠や説得力のない事を理由にしている場合
・相続人たちが分割について、ほとんど合意は取れているが、若干のズレによって合意が成立しない場合
ただし、遺産分割審判とは異なり、調停に代わる審判は、審判の告知を受けた日から2週間以内に当事者の誰かが異議を申し立てられれば効力を失い、遺産分割審判に移行します。
上記のような対応なども含めて裁判所が合意の成立する見込みがないと判断した場合、調停を不成立として終了させることができます。
調停が不成立で終了した場合には、当然に遺産分割審判に移行し、別途申立をする必要はありません。
調停を取り下げた場合
遺産分割の調停が成立又は不成立になるまでは、いつでも調停を取り下げることができます。
取下げをするのに相手の同意もいりませんし、理由を裁判所に提出する必要もありません。
出席しないとどうなるの?
遺産分割調停では、法律上、出席をしない場合、過料の規定が定められていますが、実務上、罰則が適用されることは、ほとんどありません。
なので、相続人が遺産分割調停に出席せず、調停委員会が成立する見込みがないと判断した場合は、調停不成立となり、遺産分割審判へ移行し、その時点では欠席者に不利益なことが被ることはありません。
しかし、遺産分割審判においては、相続人が出席をせずとも、裁判官指揮のもと進行されて行きますので、欠席し続けた場合は、寄与分や特別受益などがあったとしても、その主張をしていないために、裁判所では、相手の主張と裁判官の判断のもと審判が決定します。
そのため、欠席し続ければ自分の主張が反映されず、相手に有利な結果で終わる可能性が高くなります。
まとめ
遺産分割調停について記載をさせて頂きました。
遺産分割調停手続きを、そもそも行った方がいいのか、遺産分割についてどういった進め方をすればいいのかなどのご相談については、是非幸せ家族相続センターへご相談下さい。